Chapter1.広報教育の必要性

要約
広報機能は広報部門のみが担う機能ではない。全社員が正しい広報に関する知識を持ち、全社広報体制を築くことが重要である。


「広報」というと、「ああ、宣伝と同じようなことをやることネ」とか「社内報を発行している出版社みたいな部署」等ととらえられる傾向がある。確かに、情報を発信しているという点で、宣伝と似た部分もあり、定期刊行物を編集している点では出版社のようなこともしているが、これらは、表面に現れた広報活動に過ぎず、広報の本質が理解されている訳ではない。

「広報」という機能は、全社の経営システムから捉えれば、情報システムの1部を担うシステムである。本来、広報機能は「PR」(Public Relations)機能のことを指しており、「PR」が「広報」と訳されたことが、我が国の広報が社内認知が低い原因である、との意見もある。つまり、「広報」の文字は、「広く報じる」という意味であり、発信者側のスタンスのみが感じられる言葉であり、Public(公共)とのRelations(関係)に焦点があてられた概念であることが表現されていない。

企業は、メーカー、問屋、販売店、研究機関、株主、金融機関、マスコミ、社員、地域社会、業界、政財界などの企業を取り巻く様々なパブリックとの密接なかかわり合いによってその存在を可能にしている。このため、これらのパブリックとの良好な関係、理解、信頼、共感等を得なければ、十分な経営活動が展開できない。この、「企業を取り巻く様々な人々との良好な関係を築くこと」が、広報機能の本質的な目的である。人間に例えれば、様々な周囲の人に自分に関する情報(考えや感じ方、行っていること)を伝え、同時に周囲の人の情報も受け入れて、友情や信頼が芽生えていくのと同様である。

それでは、広報機能を担っているのは広報部門だけなのであろうか。前述のように、広報とは企業を取り巻く様々な機関との関係を良くしていく活動であり、とても、広報部門のみで担える機能ではない。日頃、営業マンが販売先に接していることも、顧客との良好な関係を築くうえで重要な役割を担っている。営業マンの言葉づかい、態度、服装等は、ダイレクトに企業イメージを形成している。情報伝達を考える際に「ヒト」が重要なメディアであることが良く分かるであろう。

広報機能は、仕入、販売、財務、研究等、企業活動が様々な局面を持つ以上、否応無しに全社員が担ってしまっているのである。広報部門は、マスメディア等の各種のメディアを担当しているので、広報機能を担う度合が高いが、決して広報部門のみが広報機能を担っているのではないことを理解しておく必要があろう。

広報機能を担っている以上、広報に関する正しい理解を持っていなければならない。ここに、広報教育の必要性が生じるのである。「すべての社員が広報マインド」を持ち、全社をあげた広報体制を築くことが、経営活動を円滑に進める上で必要なのである。
このような広報教育を進める推進役は、広報部門であり、この広報教育活動自体がとても大切な社内広報活動なのである。もちろん、広報部門スタッフに対する広報教育・スキルアップが、一般社員の広報教育に先駆けて必要であることは言うまでもない。


Chapter2.「広報教育セミナー」の企画と運営

要約
@広報教育セミナーを開催するのに、最も大切な事柄は経営トップの広報に対する理解である。トップに広報マインドがない企業では、社員一般に広報マインドは育たない。広報部門スタッフの熱意・情熱で、経営トップを説得し、まず、経営陣に対する広報教育セミナーから始めよう。
A広報教育セミナーを企画するため、「6W2H」を明確にしていく。


ここで広報教育セミナーを実施するうえで最も大切なことを確認しておこう。それは「経営トップの広報に対する理解」である。残念ながら、社長の広報マインドが低い企業において、社員の広報マインドが高まる可能性は極めて低いと言える。広報マインドのない社長のいる企業においては、自社に都合の悪い記事が新聞に載った時には、広報部門責任者が随分と忠告を受けるものである。まるで広報部門責任者自身がその記事を書いたかのごとく「記者の中傷記事を止められないダメな責任者」と受け止められるという。広報部門責任者からしてみれば、常日頃の記者懇談会等に1度も社長が出席せず、広報が何たるかも理解しようとしない社長に対して提言したいことが山ほどある、というところである。このような企業は、不祥事が発生した際に、社長の「広報軽視」がマスコミに大きく取り上げられ、社会的・経済的なダメージも大きくなってしまう。企業の存続問題にまで発展する可能性もないとは言えない。

それでは、広報に関する正しい理解を進める目的で広報教育セミナーを企画してみよう。それぞれの企業に応じて、リメイクする必要があるが、基本的な事項は確認できるであろう。 広報教育セミナーは、「6W2H」を明確にしていく過程で企画されていくことになる。