多忙でも楽しんで仕事するための仕事環境の整備学

株式会社スプラム代表取締役 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載


●IT革命が社内誌編集部門を改革する

「IT(Information Technology)」の文字が新聞に載らない日はなくなった。 一昔前は「マルチメディア」や「イントラネット」の言葉が社内誌編集者にとって興味が高かったと思う。 「マルチメディア」の何倍もの幅と深さがある概念が「IT」である。時代の流れは早い。

政府は2000年に65兆円である「情報・通信関連分野」の市場規模が2010年には、 120億円になると予測している。まさにIT革命が進み、日本に新しい付加価値を生む訳だ。
IT革命が進むと、新しいビジネスが生まれる。米国の「amazon.com」は代表的だ。 ITを駆使したビジネスの仕組みを保護する「ビジネスモデル特許」を取得したというから、 今後の同社の動きには目が離せない。同社がライセンス(特許)使用料金を他社に要求すること も可能であり、一気に黒字決算に転じることになろう。

amazon.com」のように、IT革命により雇用も増える。日本では2000年に313万のIT従事者が 2010年には467万人と1.5倍になると予測している。しかし、その一方で、旧態依然の業種は消えていく。 これが"経済構造の転換"を進め、再び"強い日本"へと導いていく。

そして、これは企業内の管理体制に関しても同様のことが言える。 つまり、「社内誌編集者部門の再編」である。イントラネットに代表されるIT技術を活用することで、 従来の紙の社内誌の予算が大幅に減額された企業が多い。多くの企業でリストラが進んでいるが、 売上を生むライン(営業部や支店等)に比べて、経費を生むスタッフ 部門は人員削減の的になりやすい。 金融、通信、自動車等々グローバルな企業競争を勝ち抜くためには、世界の3倍と言われる人件費にメ スを入れることは企業経営全体の視点で考えると、当然のことかもしれない。

●忙しさを増す社内誌編集者

こうなってくると、社内誌編集部門は忙しさを増す。もともと"手工業的な業務"とか"職人的センス" が要求されるのが社内誌編集であるので、「ハイ、これで完成」とはなかなか思えず、「もっとレ イアウトに凝ろうかな…」「まだ校正の見落としがあるのでは…」と考え、ついつい長時間業務になりがち なのが社内誌編集だ。 従来から忙しいのに、輪をかけて人員削減の指令。「社内誌編集の質は下げられない」と頑張っても、限 られたスタッフでできる編集には限界がある。

●"急ぐ仕事は忙しい人へ"の正解

昔から「急ぐ仕事は忙しい人に頼め」と言う。これは正解だ。忙しい人は時間管理がうまい。 ある人は、いつも携帯電話で電話をくれるが、決まって「歩行中」だ。電車は座れればノートパソコ ンで仕事ができる。座れないときには立ちながらiモードでメールをチャックできる。でも歩行中 にできることは電話しかない。このような人のパソコンのデスクトップは、きちっと整頓され ていること多いし、ログオフする前には「ゴミ箱」のファイルを「ゴミ箱を空にする」にすることも多い。

現代企業に吹き荒れるリストラの嵐を、社内誌編集者は"仕事環境の整備術を身につけるチャン ス"と考えよう。少ないスタッフできりもみした経験は、きっと次に仕事の進め方の糧になる。

●社内誌編集者よ、心構えをしっかりと

企業内に新しい価値を生むこと、新しい企業文化を育てること、これが社内情報交流の目的だと思う。 この機能が果たせない社内誌編集部門は、今後の企業では存在価値はない。社内誌編集者は、 情報の発信者と受信者を仲介して、または自らが情報を生み出して社内に発信する役割がある。

情報を発信する者には、それなりのマネジメント知識やマーケティング知識が必要になる。 これらの経営知識を理解して、初めて魅力的な企画を立てることができるようになる。 バブル時代に見られたような「表面的に面白いだけ」の企画しか立てられない編集者は、 「ナウイ」と口にするオジサンと同様に現在の経営からすると「過去の人」と思われてしまうだろう。 今後の社内誌編集者は、経営センスが必要だ。

現代経営は、事実を正確に把握して、そこから企画、組織化、実施を行うという業務プロセスが 一般的である。その事実を把握するためにも、社内の情報を把握しておく必要がある。 様々な情報が氾濫していて迷う、という考えは、情報を整理する領域がしっかりとできていないからだ。 社内誌編集者は、様々な情報を扱う。是非、情報を整理するスキルを身につけ、素早い対応ができるよ うにしたい。

●早くて正確な編集。こうすればできる

情報は腐る。イントラネットは社内誌の「月刊」の概念を変えた。紙を媒体にすることを前提に した社内情報提供は早晩無くなると考えよう。情報は生まれてからなるべく早く発信する、こ れがNEWSの意味だ。 時代はIT一色。企業体質を変えて、社内誌編集部門の人員削減を導いたIT革命を、編集者は大いに活 用していこうではないか。
社内誌編集者は以下の編集ツールを使いこなしていこう。

【パソコン】
これを使えない社内誌編集者はいないと思うが、キーボード操作が遅い人は訓練をしよう。 手書きの方が早いという人は要注意だ。パソコンの使い方としては、パソコンがもっとも得意とする 「繰り返し」、「検索」、「抽出」の機能をフルに活用して、様々な情報を引き出すとよい。

具体的には、ユーザー辞書を編集部門で共有するとよい。社内誌の原稿を書く場合、または、 原稿依頼をする場合、社内の役職やフルネームを入力する場合が多いが、「名前を間違えて依頼書を書 いてしまって、気分を悪くされたらどうしよう…」「ゼネラルマネージャーに昇格されたのに、課長と 書いていたらどうしよう…」という不安があるため、ついつい社員名簿を再度確認してしまう。 この時間は積み上げると大きい。

対策として、MS-IME等の日本語変換ソフトの語句登録を社内誌編集部 門で共有するとよい。人事異動が行われた直後等に、語句登録された従業員の役職を変更しておけば、 その後は「たけうち」と入力すれば「A事業本部B営業部部長竹内幸次」と一発で変換するように設 定すれば、社内誌編集部門に入社した、もしくは転勤してきた初心者編集者でも基本的なミスを犯さ ないで済む。

ただし、ユーザー辞書は、それぞれのローカルのパソコン内に置かないといけないので、一度担当者 が作成したユーザー辞書を各パソコンにコピーして上書き処理する必要がある。その際、すでにユーザー 辞書が使われていると、上書きができないので、デスクトップ上で「Alt+Ctrl+Delete」をして 「プログラムの強制終了」画面から、IME等の日本語変換ソフトを起動させているプログラムを終了させて から上書きを行う必要がる。あまり慣れない場合には、この処理は危険なので、システム管理者に相 談しながら進めるべきであろう。






また、Microsoft Word等のワープロソフトの文書校正機能は便利だ。依頼原稿を電子メールで受け 取った後は、まずはウイルスチェック、次は文書校正を行うとよい。この機能で、すべての文章表現 のチェックが完了する訳ではないが、一般的な文章表現の訂正は自動に行ってくれる。


【インターネット】
これも使えない社内誌編集者はいないと思う。余談であるが、調査によると、大手企業の約半分は 社員が社外に発信する電子メールの内容をチェックしているという。また、海外の企業では、ブラウ ザの履歴から、ポルノサイトを閲覧した事実が見つかった場合は解雇処分になるという。

これらの厳しい措置は、逆に考えると、それだけインターネットが企業内外に浸透したメディアにな ったということである。
インターネットが普及する以前には、社内誌編集者は書店で雑誌を見ては、編集企画やレイアウ トの参考にした。今ではインターネットのホームページを見て、これらの参考にする。 もちろん、インターネットは、情報そのものの収集にもなくてはならない情報源でもある。 米国調査企業の調査では世界で1日に150万ページのホームページが増えているらしいから、その情報 の多さは凄い。

さらに、yahoo等の検索ページの使用を極めることも必要だ。すくなくても「エキスパート検索」 を使いこなすようにならないと、情報を扱うプロとしてはスキル不足だと考えよう。










【iモード】
NTTの固有技術であるiモード。発売1年で420万台を超えた。発売当初はiモードの情報料 金を支払うことができるのは、ある程度の金銭的余裕が必要であるせいか、"大人の携帯"として普 及したが、今では高校生までがiモードユーザになった。とくにメール交換をすることが多い女性ほ どiモードへの関心が高いようだ。

このiモード、NTTはDoCoMoの携帯電話に標準装備する方針というから、一気にiモードニッポ ンなっていく。

iモードはインターネット端末だ。ホームページを見ることができれば、電子メールの受発信もで きる。駅の乗り換え案内や時刻表、株式の売買、銀行振込み、チケット予約等、様々な機能があり、 とても便利である。

このiモードを社内誌の分野で活用することを考えよう。情報収集のメディアとして、営業職社員 への情報提供メディアとして、特派員社員からのリアルタイムな情報集めのメディアとして。ほかに も様々な使用方法が考えられよう。2001年からはW-cdmaの技術が登場する予定であり、まさに画像も 送れるマルチメディア端末に進化していく。

15年ほど前にビデオ社内報が普及しはじめたが、 来年からは、いわば社員一人ひとりがビデオカメラとテレビ画面の双方を持ち歩くことを意味する 「ポータブル動画社内報」の時代に突入する。

iモードを使うメリットはクイックレスポンスが実現することだ。インターネットのメールサーバー に届いている自分宛てのメールをiモードで読むことがき、対応が早まる。クイックレスポンスな人へは 情報が集まる。情報が集まること。これは社内誌編集者の生命線かもしれない。

なお、NTT以外の携帯電話会社でもインターネットに接続する機能にシフトしてきている。 日本のインターネットの発展は、携帯電話がプラットホームにありつつある。

【ボイスメモ】
SONYをはじめ電器メーカーでは、数時間録音可能なICレコーダーを発売している。これは便利だ。 サイズが小さいから、通勤電車のなかでひらめいた企画を、そのまま保存することができる。 文字よりも声の方がニュアンスが残せる。

最近では、WindowsCEを掲載したPDA(Personal Digital Assistant=小型の情報端末)では、 内蔵マイクを使用して、このボイスメモ機能が使える機種が多い。人の脳は、認識していないときにも、 いわばバックグラウンドで情報を処理しているという。脳の無意識層の領域だ。この分野で編集の 企画が思いつくことも多い。ボイスメモで素早く記録しよう。

【デジタルカメラ】
その場を記録する手軽なメディア。15年前、ミノルタのα-7000が発売された時、これは衝撃的だった。 ピント合せがいらない手軽さは、どれだけの"瞬間のゲット"に貢献し、社内誌のビジュアルを豊かにした か計り知れない。しかし、アナログであるため、画像はフイルムの質に左右され、写真ができあが るまでには1〜2日を要した。

今はデジタルカメラの時代になった。200万画素以上であれば、紙の社内誌の表紙に使用することも できるくらいのクオリティがある。画質が劣化しないし、電子メールで添付して送ってもらえるし、 大変に便利な時代になった。

●自分の"企画アイデア・データベース"を作る

システム手帳やノートに企画メモを作成している社内誌編集者は多い。基本的にメモは自分の思考を 再現するための手段であるが、パソコンでのデータベースにすれば、社内誌編集部門全体の知恵になるし、 転勤の際にもスムーズにノウハウの引継ぎができる。是非、"企画アイデア・データベース"を作成しよう。 具体的には、以下をAccessのテーブルやExcelの表頭にしてデータベースを作るとよい。

・企画のねらい(目的)
・主な読者ターゲット
・掲載月
・おおよそのページ数
・原稿執筆者
・大まかなレイアウト
・参考になる記事やホームページ
・編集する際の特別留意事項(事業部や人事部への確認等)


●編集ブレーンを多く持つ

これまではデジタル機器の活用を重点的に考えてきたが、パソコン等のデジタル機器は収集された情 報の整理や2次情報(既に公開されている情報)の検索には便利であるが、"多くの社員が知らない情 報"を収集するには、やはり社内外での人的ネットワークが欠かせない。

他業種の社内誌編集者から企画のアイデアを得るものいいし、まったく違う業界でまったく違う職 種で働く学生時代の友人からでも企画のネタ情報は集めることができる。

ただ、ホームページのようにリクエストした人に同じ情報を返すような単純な生き物ではないのが人 間だ。つまり"好き嫌い"により、有用な情報の集まり具合には差が生まれるものだ。

日本経済新聞社発行の「信頼と好意の企業イメージ創造」は社内誌を含む広報担当者にとって、 参考になる記載が多い。このなかで、企業への好意が製品購入意向にどのように関連しているかを 分析している。また、人が人に好かれる心理学のメカニズムを、企業の広報活動にも応用していこうと したアプローチをしている。実証的に、「好意」はあきらかに「製品購入意向」に相関関係にある。 つまり、「好意」は社内誌編集者の「情報収集力」に相関する。

【好かれる4つの法則】
・類似性の法則(似た者同士は好きになる)
・接触性の法則(よく会う人は好きになる)
・内部充足の法則(知識欲等の欲を満たしてくれる人を好きになる)
・前向きの法則(上記がなくても、前向きな人を好きになる)

あまり策略っぽく人に接するのはよくないが、「あなたの部署と同じようにコミュニケーションを テーマにしている」という接し方で類似性を醸し出すとか、週に1度は電話を掛けて最近の事業部の 情報をうかがうとか、何らかのためになる情報源を提供することにより当方も情報を得るとか、 常に真剣に企業内のコミュニケーションを前向きに改善している姿勢は、企業内外の情報ブレーン に好かれることにつながり、社内誌編集者の情報収集力を格段にアップさせることになる。

今や"スピード"は第5の経営資源である。同じ編集を行うには短時間でできる方が価値がある。 少ないスタッフ環境で価値ある社内コミュニケーションを提供するために、プロの編集者として仕事環 境を整備していこう。


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