デジタル化で変わる社内広報のスタイル

PR&マネジメント研究所スプラム代表 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載


先日、労働省「ビジネスキャリア制度」向けの教材づくりに参加し、浅学非才ながら「社内広報」を担当した。社内広報の目的等を書き、各メディア特性の説明を書き始めた時、これまで社内の中心メディアであった社内誌が今、大きな変革期にあることを考えざるを得なかった。何せ明治維新以来の大変革をもたらすと言われるマルチメディア社会。インターネット上では仮想商店街やオンラインマガジンをはじめ様々な新ビジネスが日々登場している。人と企業をめぐるコミュニケーション手段が音を立てて変化する中、社内誌の役割と社内広報のスタイルが一変する時もそう遠くないかも知れない。

●マルチメディアと広報の「近い関係」

マルチメディアは、ネットワーク系、パッケージ系に大別されるものの、まとめて定義すれば「デジタル化された文字、図形、音声、画像(静止画・動画)情報を、ユーザーが複合的かつインタラクティブ(双方向的)にコンピュータで引き出せる技術の総称」となる。ここで、編集者のあなたは、各キーワードにピンときたに違いない。つまり「文字」 は原稿、「図形」はイラスト、「静止画」は写真、「動画」はビデオ社内報、「ユーザー」は読者、「双方向」は読者参加や2Wayコミュニケーションへと、編集者に馴染みの深い言葉に置き換えることができると。そう、マルチメディアは、社内広報にとって、とても身近で利用価値の高い技術なのである。時代の変化を傍観せず、編集者にとって、労は半分、 効果は2倍になるよう、思いっきり「変化」を社内広報に取り入れていこうではないか。

●「通信」で拡大するデジタル化の効用

マルチメディアを社内広報に取り入れていく過程で、まず取り組みやすいのは「文字情報のデジタル化(電子化)」と「文字情報の通信」である。前者は、多くの編集者が行っている原稿のパソコン入力がそれにあたる。お陰で、文章の入れ替え、修正、コピー、レイアウト等が短時間にでき、編集リードタイムは格段に短くなった。 一方、「文字情報の通信」を社内広報に活用している企業はまだ少ない。デジタル情報は「通信」によって、その効用が倍増する。現在では印刷会社への「フロッピー渡し」が主流だが、これを情報の流れで見てみると、デジタル入力するものの、フロッピーという「モノ」の形で情報が物的移動していることになる。物的移動には時間もリスクも生じる。そこで、この移動までを瞬時に行おうというのが、最近流行の電子メール(通信)だ。電子メールはCCメールを活用したり、NIFTY-Serve 等の商用ネットを活用すれば、社内情報の収集や、印刷会社との原稿や文字校正のやり取りも可能になる。 このように社内広報において「情報のデジタル化」は情報加工をたやすくし、「情報通信」は伝達速度を極端に早め、情報の価値を高めてくれる。

●自社の状況に合わせてデジタル化を生かす

あるアンケート調査によると、社内広報上で新規に導入を検討しているメディアとして「パソコン通信」(電子メール含む)をあげた企業が最も多く(約6割)、ついで「ビデオ社内報」(約3割)、「衛星放送通信」(約1割)となっている。このことから、今後デジタル情報による社内広報が普及するのは時間の問題と言えよう。 現在「情報のデジタル化+通信」の社内広報への生かし方には、以下の2つのパターンが考えられている。 パターン1は、社内誌の編集効率を良くする活用の仕方。社内広報は情報の収集、加工、発信の3段階を経て1サイクルが完結するが、とくに収集と加工の面で活用する例だ。 収集面では、読者モニターの意見や職場情報、原稿依頼書や原稿を電子メールでやり取りする。メールの受信が確認できるので確実に編集を進められるし、原稿紛失の心配もいらない。コピーを取らなくてもメールの記録が残るのでペーパーレス化につながる。 一方、加工面では、印刷会社に原稿完成後すぐにデジタル転送で入稿できるので、編集時間が短縮されるし、印刷会社側も新たに文字入力する手間が不要になり、ゲラ作成時間が短縮される。 パターン2は、社内広報そのものを電子メールで行う例。上記のサイクルで言えば発信面で活用し、電子メールを「メディア」にする例だ。日本AT&Tでは、それまで新聞型、雑誌型の2つの社内誌を発行していたが、94年1月からは新聞型を廃止して電子メールによる社内広報に切り替えている。速報的記事は新聞型の役割であったが、電子メールの早 さは新聞以上。「明日○○という行事がある」のような事前情報が社員に好評だ。同社以外でも人事情報や月次業績情報、事務連絡等を電子メールで伝達する企業が増えている。様々な企業情報をデータベース化すれば、社員が知りたい時に知りたい情報を簡単に入手できる。これは社内版「オンデマンド」(On Demand=要望に応じて)であり、社員が能 動的に意識して情報に触れるため情報の浸透度が高くなるという効果がある。

●新時代の社内広報をデジタル化で築く

情報分野の変革は日進月歩ならず「秒進分歩」だ。この原稿を書いている時も富士写真が広報解禁と同時に情報をインターネットに即座に流すシステムを構築したというニュースが入ってきた。新しい情報伝達手法の開発は、「社内と社外」の垣根、「トップと社員」の垣根、「広報と宣伝」の垣根を確実に低くする。今後の編集者、広報部門の大きな役割 は、持ち前のやわらかアタマを生かして、新時代の社内情報伝達の仕組みを構築し、 戦略的広報を実行していくことであろう。


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