「イントラネットは社内広報をどう変えるか」

有限会社スプラム 代表取締役 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載



「ホテルオークラ、予約にイントラネット、海外7拠点と結ぶ、顧客情報共有、通信安く」「県庁内で推進、イントラネットを整備――組織の枠超え交流」「稚内信金、イントラネット導入――情報交換迅速に」「新日鉄八幡、イントラネット構築――音声・画像で薄板の情報」「ファミリーマート、イントラネット構築――店舗運営指導を効率化」。以上は「イントラネット」を記事検索した結果のごく一部である。ちなみに、日経4紙での「イントラネット」の記事数を調べると、95年1〜6月/0記事、95年7〜12月/1記事、96年1〜6月/412記事(1日あたり2.3記事)、96年7月〜10月(4日)/387記事(1日あたり4.0記事)である。今年に入って、急激に話題に上っていることが分かる。この「イントラネット」、社内情報伝達のあり方を根本的に変えてしまうポテンシャルを秘めているのである。


イントラネットの概要

ここで、「イントラネット」の概要を確認しておこう。イントラネットとは「Intra(内側の)」と「Net(ネットワーク)」を合わせた造語である。簡単に言えば、WWW、電子メール、掲示板・電子会議室、ファイル転送、暗号化・認証等のインターネット技術を活用して様々な情報の共有と交換を行う内部情報システムのことである。

イントラネットは、やはり米国から生まれた。米国では昨年秋から、社内情報システムにイントラネットを使う企業が急増している。米国調査会社のビジネス・リサーチ・グループの調査では、95年6月に米国企業の11%が導入していたが、96年6月には55%に急増、さらに97年1月には70%に達すると予測している。企業規模や業種を問わずイントラネットは急速に普及しているのである。WWW(ワールドワイドウェブ)ブラウザで圧倒的な世界シェアを誇るネットスケープ社の現在の売上高の7割以上はイントラネット用途とのことだ。


イントラネットの目的と効果

こんな事例がある。米国Hewlett-Packard社では、88年から95年の7年間で年商を3倍にした。一方、従業員数はわずか18%増。「2割の人員増で3倍の売上高」である。労働生産性が飛躍的に向上したことになる。この理由を同社は「社内情報システムへの投資の成果」と説明している。また、情報システムを導入するだけでなく、決済・承認ルールの革新も同時に行っている。これは、電子掲示板に社員が事業提案を行い、48時間以内に「NO」のメールがない限り「GO」してよいというルールである。社員の意識を大幅に転換させる大きな変革を試みた結果、この快挙を成し遂げたのである。

この例に見られるように、イントラネットの目的は、BPR(Business Process Reengineering)の一環として、社員の生産性を向上させることである。従来のグループウェアと経営上の目的は同じである。ただし、システムには根本的な違いがあることを知っておこう。それは、イントラネットがネットワーク自体を主体と考える「ネットワーク中心型」であり、グループウェアは「ホスト中心型」もしくは「クライアント/サーバ型」という点である。また、イントラネットでは、世界標準のプロトコル(TCP/IP)を採用しているため、異なるメーカーのコンピューターやアプリケーションでも使用でき、しかも無料もしくは低価格で使用できることが多いのに対し、グループウェアではメーカーのアプリケーションに頼ることになる。これはコストに反映され、イントラネットでは比較的安い費用で簡単に短期間でシステム構築ができるのに対して、グループウェアでは一般にこれより高い。また、WWWブラウザはグラフィカルで見やすく、リンクにより関連情報の検索がしやすく操作が簡単である。これはユーザー・トレーニングの時間と費用の短縮になる。イントラネットは「即戦力システム」なのである。


日本企業のイントラネット

さて、日本企業のイントラネット導入はどうだろう。帝国データバンクが今年7月に日本の有力企業4,600社を対象に実施した調査(507社回答)によると、イントラネットを構築している企業は1割にも満たなかった。つまり50社ほどしかない。ただし、だからこそイントラネットの構築が経営の強みになるのも事実である。大企業ほど保守的でなく、中小企業よりは各部門が専門情報を持つような中堅・成長企業では、導入による企業変革効果が著しく、市場における競争力は大きくアップすることだろう。


イントラネット構築のステップ

一般に、イントラネット構築に必要なステップは以下である。
@導入目的の明確化
導入前に目的を明確にしておかなければ、価値の無い情報が社内に流れたり、情報を隠す部門が現れたり、技術論が先行して本質を失う等の状況を生む可能性がある。イントラネットはコラボレーション(共同作業)を可能にし、環境変化に迅速に対応できる組織へと経営体質を抜本的に改善するポテンシャルを持っている。導入には組織運営方針を刷新するトップの気構えが必要である。

A社内の情報ネットワーク化
イントラネットの基本であるWWWに各部門の情報を乗せ、全社員が電子メールが利用できるようにする。全国や海外に拠点展開している企業の場合には、暗号化とファイヤウォールを施してセキュリティーを高める。

Bデーターベースとの連携
WWWによる情報共有と電子メールでの情報交換が社内に浸透したら、次は、データベースとの連携のステップに入る。この段階では、既存のシステムやデーターベースと連携させ、ブラウザで様々な情報が取り出せるようにする。

C 社内外の情報システムの統合
より未来志向で考えると、やはり、エレクトロニック・コマース(EC=電子商取引)を視野に入れ、社内外のシステムをインターネットを活用して統合する用途が浮かんでくる。取引先への広報誌をWWW化し、顧客を「取引先」から「取組先」へとパラダイムシフトさせ、自社を中心にした「取組先イントラネット」も構築できる。


イントラネットのメディア特性

さて、広報部門の視点で、イントラネットのメディア特性を整理してみよう。

@情報の共有化が進めやすい
とくに「情報活用時」の共有化が図れる。「1年前の社内誌に載っていたデータを活用しよう」といった場合、紙媒体と比べ、WWWではスピーディーに情報を引き出せる。いわばバックナンバーが生きた情報として共有され続けるのである。5ヵ年事業計画書の内容等は、年度初めだけでなく常時見れる状況にあることが望ましい。

A速報性に優れている
10年ほど前、紙の社内報があたり前の時代に「ビデオ社内報」が注目された。その時も「紙媒体より速報性が高い」と評価されたが、イントラネットの場合は、さらに早く情報が伝わる。ウェブマスターによる情報収集、加工・入力、伝達のいずれの時間も早い。また、画像をリアルタイム再生するの技術が一般化すれば、生中継も可能になる。

B情報伝達の経済効率が高い
バブル崩壊直後、社内誌の紙質を軽いものに変更したことを思い出す。紙の社内誌の場合には重量がコストに影響するため、情報伝達コストはばかにならない。これに対してイントラネットの場合は、情報伝達時のコストは通信費が掛かる程度である。

Cコミュニケーション性が優れている
「電子メールだと気軽に意見が言える」ということは、パソコン通信のフォーラムが実証している。文章作成は考えをまとまとめる効果があるし、情報の受け手は簡単にデリートできるので苦にならない。これが活発なコミュニケーションにつながる。また、ニュースグループを作成して専門技術分野の会議室的な使い方も可能である。

D表現力が豊か
文字・写真の社内誌と比べ、WWWは文字・静画・動画・音声等が伝達可能である。ファイルサイズが大きくなるが、臨場感や雰囲気、人の熱意等が伝えやすい。

Eパソコンを必要とする
イントラネットを構築するには、社員1人1台のパソコン環境が必要である。「課に2〜3台」では効果は期待できない。しかし、PDA(携帯情報端末)にWindowsが乗る時代である。モーバイルコンピューティング環境はどんどん加速していくので、この点は解決に向かうだろう。


イントラネットに何を乗せるか

社内広報の目的は、経営コンセプトを全社に浸透して企業文化を育て、直接的・波及的に社内コミュニケーションを活性化させ、組織のモチベーションをアップさせることである。株主等を念頭におけば「事業計画の遂行環境を整える活動」ということになるし、社員を念頭におけば「働きがい、所属感の創造活動」になり、経営上きわめて重要な役割を果たしている。

さて、上記の目的とメディア特性を踏まえ、どんな情報の共有・交換が考えられるであろうか。一般には以下のような切り口が考えられる。

@経営関連の情報
従来の会社案内や決算書等の情報、社長メッセージ、経営計画・戦略、プロジェクト情報、情報システム情報等

Aマーケティング関連の情報
新商品開発計画、新商品コンセプト、新技術の詳細情報、特許・商標等の出願、販売計画、受注の成功事例、競合他社の動向、ニーズ情報、顧客相談室へよせられた情報、プロモーション企画等

B人事・総務関連の情報
社員名簿(紹介)、異動情報、評価制度、研修計画・内容要旨、福利厚生、人事消息情報、社内規定、社内行事、法務情報、社内キャンペーン、会議室や食堂の予約等

C経理関連の情報
資金調達、増資、資金運用、自社株価推移、業績見込等

D広報関連の情報
プレスリリース、企業イメージ、緊急時のマスコミ対応法、緊急社長会見の内容、ステートメント、社内ポスター等

Eその他
仕事紹介、職場紹介、事業提案、商品提案、所管省庁や同業企業へのリンク情報等

また、イントラネットで社内広報を展開する場合、現実に考えられる選択は「社内誌とのメディアミックス」か「イントラネットオンリー」か、という選択であろう。結論から言えば、簡単にはイントラネットオンリーに転換することは困難である。中高年社員の中にはパソコンアレルギーを持つ社員も少なくないことから、現実的には「朝日新聞」と「asahi.com」が共存しているのと同様、社内誌とのミックス期間が必要である。


イントラネットで変化する社内広報担当者の役割

インターネットの普及によって、企業は自らメディアを所有したことになり、このことがマスコミへのニュース配信を中心にした「広報」と広告枠を買い取る「広告」の境目を低くし、内部では広報部と宣伝部の密な連携をもたらした。次の波であるイントラネットの普及によって、社内広報担当者の役割はどのように変化していくのであろうか。

企業内の情報は、WWWによる「全社共有情報」、電子メールやニュースグループによる「特定社員共有情報」、電子メールによる「各種伝達情報」に整理されていくが、この過程は、従来にない新しい状況をもたらすことになる。それは「全社員が情報発信者になる」という状況である。情報発信作業は格段にたやすくなる。社内には「なにも広報部がなくても各部門で情報のやり取りをするさ」という考えも出てくるかも知れない。これはコミュニケーションの活発化と同時に、情報の混乱を社内に発生させる危険性を意味する。ここに今後の広報部門の役割の中心を見出すことができる。つまり、イントラネット時代であるからこそ「共有する情報」「共有する価値」「共有する企業文化」の価値が見直されるのである。インターネットの普及は従来の「昨夜のナイター、最高だったな」に見られるような「共通話題」をなくしてしまうと言われる。各人が自分の興味分野の情報だけに深く触れるようになるためだ。社員の価値観が多様化することは、ある面で経営のプラスになるが、行き過ぎると「1つの経営組織」であるメリットが薄れてマイナス効果が大きくなる。自社に合った全社共有情報をどの ように構築し、どう運営するのか。部門に眠る情報をいかに発掘し、どのような活用価値を付加するのか。その結果、どのような社内変革を導くのか。これらを解決することが今後の社内広報部門の重要な役割になる。

また、役割の変化は組織の変化へとつながっていく。全社の情報機能を統括した部門が必要になる。具体的には、「コミュニケーション本部」や「情報本部」等を社長直轄組織として設置し、そこで「社内広報」「社外広報」「マーケティング(営業支援)」「情報システム(技術)」の4機能を一元管理する体制が好ましい。広報部門スタッフには、より戦略的に社内情報を位置づける視点が要求されることになろう。


社内広報担当者の課題

イントラネットは企業を革新するポテンシャルを持っている。しかし、イントラネットが企業を革新するのではないことも認識しておこう。共有・交換する情報コンテンツの質が企業を革新させるのである。「読まれる社内誌」を目指して写真を増やし、カラー化しても、肝心の企画と記事内容が貧弱では何年経っても社内が変革しなかったことは社内誌担当者は身に染みて感じていると思う。イントラネットも「見られるウェブ社内報を」等のテーマに固執して表現技術論に走るのではなく、どんな情報を共有化して、その後にどんな社内変革を導くのかを大いに論議されたい。

また、現在は月刊の社内誌が一般的だが、イントラネットでは「随時」が基本である。「編集長」改め「ウェブマスター」による迅速で的確な情報収集・加工・発信が求められるが、情報は沸くものではなく人が作るもの。人間関係の重要さは従来以上に増すと考えておこう。

イントラネットは生まれたばかりの社内メディアである。今後数年間は試行錯誤の時期であり、育てる方向は企業によって異なると思われるが、イントラネットを真に経営に価値あるメディアに育てていくうえで社内広報部門の責任は大きい。従来の社内誌編集のパラダイムの中にイントラネットを当てはめて考えるのではなく、経営者の視点で社内広報機能をとらえ、新たなパラダイムのもとでイントラネット社内広報をクリエイトしていこう。



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