「社内広報に便利なデジタル道具と必要なアナログ感覚」

有限会社スプラム 代表取締役 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載

 

変化した社内広報のツール

ここ数年の情報通信分野の技術革新と普及は凄い。パソコンの出荷台数は、伸びが鈍化しているとはいえ、今年は970万台が出荷されるという。これは、96年の家庭用エアコンが720万台、カラーテレビが1,000万台であることを考えると、その数の大きさがうかがわれる。
「ニュース」の概念も変わった。新聞休刊日のインターネット日経新聞「NIKKEI NET」はアクセスが数十万にもなる。97年4月に横浜市が行った調査では、世帯の18%がインターネットに接続できる環境にあるという結果である。家庭生活においてニュースを得るメディアの一つとしてインターネットは定着しつつある。

そして社内コミュニケーションの分野では、「社内報」の概念が変わった。10年ほど前、社内報編集セミナーに受講生として参加した時、ハサミで記事を切り取ってレイアウトをシミュレーションした覚えがあるし、バブル崩壊直後には紙の重さを軽減することで支店への配送コストを低減しようとした。従来、「社内報」と言えば紙であった。原稿を手で書いて、1部コピーを取って保存し、印刷会社へ原稿を持参する。数年前の社内報を見る必要がある時には地下の資料室へ行き、埃のかぶった既刊紙を見た。

もちろん社内報の役割の本質には変化はないが、社内誌という「物」を「社内報」と呼んでいたのに対して、今では「物」のことを指すのではなく、「社内情報を伝達する行為」を「社内報」と呼ぶようになった。
 
 

イントラネット導入企業が増加

電子版の社内報を展開する企業が大手企業を中心に増えているが、技術的なインフラとしてイントラネットの存在がある。日本経済新聞社が大手・有力企業2,656社を対象に昨年暮れに実施した「第2回インターネット利用実態調査」によると、約4割がイントラネットを導入済みか、導入を予定していた。導入企業の用途では、「技術情報データベース」がトップで52.5%であり、これは第1回調査と変わらないが、注目すべきは、第1回調査では4位だった「社内報用途」が37.6%と2位に上昇していた点だ。


多大なメリットがある電子メディア

さて、電子メディアのメリットは様々であるが、一般的には以下のようになろう。
・速報性に優れている
・同時性に優れている
・低廉性に優れている

例えば、WWW(ホームページ)を利用すれば、以下のようなメリットが加わる。

・表現力に優れている
文字情報が中心の電子メールと違い、インターネットの通信技術を活用したWWWでは、マルチメディア性が生まれる。文字に加えて図形、動画、静画、色、音までを伝達することが技術的に可能であり、表現力は格段に高まる。
・双方向のコミュニケーションが活発化する

電子メディアであると、社員からの生の意見が集まりやすい。アナログのような封書や切手貼り、投函という作業が不要であるため気軽に書ける。こんなに便利な情報メディアはない。紙の社内報を編集している時には、読者からのアンケートを回収するのに何度かプッシュの電話が必要であった。電子メディアになってからは、同報発信機能を使えばこの手間も減るし、もともとアンケートのリターンは良い。

・見たい時に見ることができる
社員は見たい時に見たい社内情報を見ることがきる。ニュースや企画記事が生まれた時が更新時であり、社員も出先からもアクセスが可能であり、休日に自宅からWWW社内報をじっくりと見ることも可能になる。ビデオ社内報との違いを考えると、見る側の時間を拘束しないという点が優れている。月曜日の朝15分間は職場の皆がテレビモニターの前で本社からの伝達を見たビデオ社内報の時代が既に懐かしい。

・ボーダーレスである
地球の裏側の社員と国境を感じさせないコミュニケーションを実現するには、インターネット技術が欠かせない。

・デジタル情報
情報の蓄積・加工・伝達を繰り返す社内情報の場合には写真や音もダウンロードでき、しかも簡単にリメイクして再発信できる電子メディアの効用は大きい。


テレワークの普及にも電子メディアが欠かせない

小規模事業主の観点からSOHOが注目され、大企業の観点からテレワーク(遠隔勤務/在宅勤務)が注目されている。日本サテライトオフィス協会ではテレワークの意義として以下をあげている。
@通勤時間の短縮化による疲労軽減
A育児・介護の必要がある労働者、障害者、高齢者等の雇用機会の拡大
B企業における生産性の向上
C環境にやさしい社会の実現(エネルギー消費の削減)

現在、日本経済は、明治維新、第二次世界大戦に続く第三の大きな変革期にある。日本経済が世界にその存在を改めて示すためには、過去にないレベルでの大規模・広範囲な変革が必要である。「痛勤」で疲労するビジネスパーソン、交通渋滞、大気汚染、そして高齢者の雇用拡大、女性の感性のビジネス化、これらの課題を企業が解決するためには、テレワークによるワークスタイル自体の変革が欠かせない。テレワークは今後、広く浸透すると予測されている。

ただし、遠隔勤務では、社員間の社会的つながりが希薄になり、ストレスが増すと言われる。マズローによれば、人は「所属と愛の欲求」が満たされて、はじめて「尊厳」、「自己実現」の欲求が生まれる。遠隔勤務で「所属感」が薄れれば、労働者のモチベーションは低下し、企業として高い労働生産性を発揮するとことは困難になる。

テレワークにより企業の職場以外で職務を行う社員に対して、時間的なハンディなしに、通常に社員と同じ情報を、しかも従来型の社内報が得意とする人の交流や、楽しさのある情報等も同時に共有できることは電子メディアの今日的な大きな意義であろう。ちなみに同協会ではテレワーク人口を1996年に81万人、これが2001年には295万人になると推測している。


まずはデジタル機器とソフトを揃えよう

これまで電子社内報のことを中心に記載してきたが、発行形式が電子メディアに限らず、紙の社内報の編集においても、以下のような電子機器・ソフトの活用を進めることは今後の社内コミュニケーターに欠かせないことである。

【パソコン/携帯情報端末】
まずはパソコンハードである。編集者用と、読者である社員の外出先での情報アクセス用があれば尚いい。タワー型、デスクトップ型、ノートパソコン、PDA(携帯型情報端末)がある。大企業では1人1台のパソコン体制となっていることが多いが、そうでない場合には、電子メディアの普及のインフラとしてパソコン体制を整備するのも良い。

【文書作成ソフトウエア】
・Microsoft Office97
言わずと知れたビジネスソフトの定番。日本語ワープロである「word」と、表計算ソフトの「excel」、プレゼンテーションソフトの「powerpoint」、データベースソフトの「access」、情報管理ソフトの「outlook」が統合されている。マイクロソフトのブラウザであるインターネット・エクスプロラーとの連動も良く、イントラネットのコンテンツ作成に向く。また、フォトエディターソフトも付加されており、ちょっとしたグラフィックの処理は十分にこなすころができる。

・OASYS for Windows95 V4.0
多彩な表現力を持つ。DTP並のきめ細やかな表現力と、豊富なグラフ、線画機能で、やりたいことを簡単に表現できる。縦・横書きの編集はもちろん、0.1ポイント単位で文字の大きさが設定できるマルチポイント指定、10段までの段組指定、独立したフォーマットを組み込める浮動フィールドなど、DTPのきめ細かな表現力を実現している。

【ブラウザ】
・Netscape Navigator
世界シェアがナンバーワンのブラウザ。バージョン4.0以降はNetscape Communicatorの一部になった。Communicatorには電子メールソフト、使いやすいホームページ作成ソフト等も統合されている。

・Internet Explorer
Microsoftのブラウザ。Windowsマシンに、はじめからインストールされていることからシェアが高まりつつある。バージョン4.0以降は基本ソフト(OS)であるWindows95の一部としての機能も付加された。

【アートデータ(クリップアート)】
・KEY Color Clip Art
PCX、WMF、CGMの3種類のフォーマットで保存されており、社内報のみならず、ニュースリリース、案内状、広告等にカラークリップアートを貼り付けることによりさらにインパクトのある印刷物を作成することができる。収録データのカテゴリーは、ビジネス、コミュニケーション、デザイン、教育、自然環境、食べ物、健康、その他多数と幅広い。

【スキャナー】
・EPSONカラリオ
写真等のアナログの画像をデジタルに読み込むのにはスキャナーが欠かせない。このマシンは、高精細を極めた光学解像度800dpiの超高解像度入力。また、4,096階調入力、約680億色という膨大な色を認識し、各色12bit画像を減色することなく取り込みが可能。また、これまで、スティッチングソフトでつなぎあわせていた大判原稿や、2度に分けて入力していたA4見開き原稿、あきらめていたA3図面の読み取りなども1回でスキャンできる。

【デジタルカメラ】
・SONYデジタルMavica
撮った画像をフロッピーでパソコンに入力できるデジタルカメラ。ほとんどのパソコンで使うことができるフロッピーディスク(FD)を記録メディアに採用しているのが嬉しい。パソコンとの接続に、特別なソフトやケーブルが必要ない。総画素数41万画素CCDによりVGA(640×480ドット)のきめ細かな高画質を実現している。


社内コミュニケーターに必要なWWW社内報編集の技術

上記のデジタル機器やインターネットブラウザを操る技術は最低限マスターしよう。年齢が高いコミュニケーターにとっては精神的に苦痛になる場合もあると思うが、あまり難しく考えず、自分の業務を楽にしてくれる道具と考えて、機器の操作を楽しむ余裕を自分に与えて頂きたいと思う。

次に、WWW社内報の編集ノウハウについて考えてみたい。
紙の社内報では、A4サイズが一般的であり、ページ全体が一目で把握できるのが普通である。WWW社内報の場合は、見る側のパソコンの画面サイズやブラウザの文字の大きさ指定の違いがあることを念頭に、基本的にはスクロール(ページの移動)なしにすべてのアイコン(項目)を見ることができることがポイントになる。アイコンをクリックした後は詳細な記事のページになるが、このページになるとスクロールがあっても構わない。読む(見る)つもりでここまでの階層に降りてきたからだ。この場合には原稿依頼の文字数や写真点数は、紙の社内報に比べればルーズでもいい。私自身、紙の社内報の時にはレイアウト先行で文字数を算出して原稿依頼するという手順をしていたが、WWWの場合には、テーマが決まればすぐに原稿依頼ができる。

また、外部向けのホームページでよく見られることだが、大きなグラフィックをトップページに使い、イメージ創造を狙っているサイトがあるが、トップページはなるべくデータ量を少なくして、ストレスなく画面を見ることができることを優先しよう。一時期、ストリームワークスや、ショックウエーブ、リアルオーディオ等のプラグインソフトを必要とするデータをバンバン使っていたホームページが多かったが、インターネットのユーザー層の底辺が広がると、そのようなプラグインソフトをダウンロードしてインストールすることが難しくてできないという層が増えてきた。これに対応して企業のホームページは先端技術を誇示する表現から一変して、シンプルな、せめてGIFアニメというパラパラ漫画のような技術程度に押さえる表現を志向し始めている。WWW社内報では、具体的には、1枚のイメージ(写真等)のサイズを画面の1/6程度に控え、大きく見たい場合にはクリックして全画面サイズにする等の工夫が必要である。

また、文字のデザイン化も必要だ。WWW社内報の名前や企画記事のタイトル等は、ただの文字ではあまりに陳腐だ。PhotoShop等のグラフィックソフトを使い、影をつけたり、ぼかし効果を演出したい。また、ホームページで使う背景色と文字色のバランスはセンスよくしよう。これは紙の社内報を編集しているときに培ったカラーセンスが生きくる。


アナログ感覚で味付けを

社内コミュニケーションのメディアの1つとして電子メディアが有効であることは多くのコミュニケーターが認めることだろう。しかしながら電子メディアは「なんとなく冷たい感じ」がする。理由は不可解なパソコンの画面に情報が掲示されること、紙の社内報のように配布直後に課の皆で同時にパラパラと読み、感想を交わし合うということがなく、基本的に1人で見るものであること等があろう。
むかし、腕時計がアナログで針が動くものから無機質な数字で表示されるようになった時、人は時間を針の位置から感覚的に認識していたことに気づいた。同様に社内報のもつ重さや紙の厚さや質、全体のページ数等から、企業における社内報のポジションが感じられた。

今後は、社内コミュニケーターが電子メディアを編集する機会が増えていくが、その際は以下の点に留意しよう。
●要点のみを簡潔に伝える電子メールのように、表現が簡潔になりすぎていないか。ガチガチの文章を書かず、文体に暖かみが感じられ、雑誌にも似た乗りや、ちょっとした「ちゃめっけ」等がある文章になっているか
●人の一瞬の表情をカメラに撮るには他の人に撮影を依頼する必要があるが、手軽さからデジタルカメラで自己撮影した写真が多くなり、無機質な画面になっていないか
●原稿依頼や督促、お礼、アポイント等、編集者の感情(熱意)を伝える必要がある時に電子メールのみで対処しようとしていないか。
●電子メディアの情報伝達のスピードから、足で情報を集めることを軽視していないか
●社員が自由にページにアクセスするという特性に甘んじ、「電子社内報に載っていたでしょ」という態度が編集者に見られないか

よい社内報を作る人は、人の持つ五感が発達しているような気がする。この「感じること」をストレートに電子メディアに表現できるよう、HTMLの基礎的な知識やネットワーク時代の表現マナー、人のハートに訴えかけられる企画、レイアウト、文章表現を研究していこう。


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