社内誌編集者のインプット戦略く

株式会社スプラム代表取締役 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載


●「読まれる」社内報から「活用される」社内報へ

社内報は、「社内のコミュニケーションを図るための情報発信源」である。 単なる福利厚生的あるいは読み物的な意味合いではなく、経営戦略上に位置づけられる重要なコミュ ニケーションルーツになった。一般に、「今、この部署ではこんな活動をしているのか」、 「この支店にはこんな人がいるのか」といった企画の人気が高いが、社内報には忘れてはならないもう一つ大 きな役割がある。それは、「企業を取り巻く経営環境に関する情報を提供すること」である。現在の多くの 社内報には、この役割が不足しているように思われる。

経営環境は刻々と移り変わっており、それに伴って必要な情報も変化している。直接的に企業や業務に は関連がなくても「これからのビジネスパーソンとして知っておかなくてはならないこと」や 「知っていそうで知らないこと」は多い。例えば、最近よく耳にする「コンピューター2000年問題」 について説明を求められたとき、果たして正しく伝えることができるであろうか。 「証券ビックバン」や「介護保険法」、「オゾン層」についてはどうだろうか。きちんと説明することがで きるであろうか。

社内報には、社員ひとり一人が知識を再確認したり、関心の幅を広げるきっかけを作ったりするこ とができるはずである。社内報に携わっていると、「読まれる社内報とは」という言葉に触れることがま まある。しかし、本当に社員から望まれる社内報とは、「読まれる」という受動的な社内報ではなく、 「必要とされる」、「情報源として活用される」能動的な社内報なのではないだろうか。そのためには、 編集者は自らがトレンド情報や時代を先取りしたテーマに関心を持つことが必要である。そして情報を 収集・選択し、内容を吟味・研磨して社内報に反映させていくことが求められる。

今後、編集者が押さえておくべきテーマとして、以下が挙げられよう。

1.地球環境問題
2.ネットワーク社会(インターネット、パソコン、モバイル端末機器など)
3.グローバリゼーション
4.人口構造の変化
5.法規関連
6.生活・健康情報


●"地球人"として無視できない地球環境問題

地球環境問題は多くの複雑な要因が絡み合っており、原因や影響が社員の生活に密着して いることが多い。社内報で取り上げることによって環境問題に対する関心が高まり、企業活動や個人の 生活を省みる機会を提供することができるように思う。最近、テレビ番組で取り上げられたことを きっかけとしてダイオキシンが注目を浴びたことや、低公害車の開発や導入がさかんなことを見ても 潜在的な環境問題に関する情報ニーズの高さを認識することができよう。

環境問題には、地球温暖化や オゾン層の破壊、酸性雨、森林(熱帯林)の減少、砂漠化など、地球規模的なものから都市周辺の 大気汚染やゴミ問題など、身近な問題まで多岐に亘っている。環境問題は早急に解決策を見出 すことが求められており、それには個人レベルでの高い意識が必要不可欠である。社内報で身近 な環境問題や環境の変化について取り上げることによって、「自分は一体どこまで環境問題を正し く理解しているだろうか」、と気づくチャンスを提供することができよう。

●「iモード」向け社内報も実現できる?ネットワーク社会

ネットワークは急速に進展しつつある。今やインターネットでの情報収集は当然であるし、 インターネットショッピングも珍しいことではなく、もはやビジネスツールとしての電子メールは 欠かせないものになっている。

郵政省の「平成9年度通信利用動向調査」によれば、家庭におけるパソコンの保有率は28.5%となっ ており、実に約3世帯に1世帯の割合で普及している。インターネットショッピングの市場は平成 8年度に285億円、平成9年度には818億円、平成10年度は1,665億円と着実に拡大している。最近では インターネット上に英会話学校が出現するなど、サービス業の分野にもネットビジネス市場が拡 大している。

ビジネスにおいても、モバイル端末機器を使った正確でリアルタイムなやり取りは、ラ イバル企業との競争力を高める上で必需となっている。日常生活においても、例えばドコモの「 iモード」などを用いることによって、かなりの情報量を大変手軽に得ることができるようになった。

以上のことから言えるのは、何らかのネットワーク機器を日常的に利用する社員の割合は着実に増 加しているということである。10万円を切る価格で販売されるパソコンも出現し、今後も一層の普及 が予想される。このような現状を踏まえ、ネットワーク社会において必要とされる情報を社内報に盛り込 むことは、「活用される社内報」となるために必要不可欠であろう。また、在宅や営業社員の「i モード」向けに電子社内報を発信する日も遠くないだろう。

情報源としては、インターネットはもちろん、「通信白書」(郵政省編、大蔵省印刷局発行)や 「日経ネットビジネス(旧日経マルチメディア)」(日経BP)、「日経モバイル」(日経BP) 、「週刊アスキー」(アスキー)、「インターネット白書」(日本インターネット協会)など、枚挙にいとまがな い。

●世界で作り、世界で売る時代に向けての"グローバリゼーション"

インターナショナリゼーション=「国際化」が叫ばれて久しい。インターナショナリゼーションとは、 世界の国々が相互の交流や拡大を基本として、経済的な取引や文化的・政治的な交流を行っていくこと である。しかし、グローバリゼーション=「世界化・全世界一体化」とは、情報通信技術の進歩を背景 として政治や経済、金融、地球環境問題といった分野が、国家という枠組みを超え、地球規模の同じル ールのもとで交流・同化してゆくということである。

グローバリゼーションが進展するにつれ、企業だ けでなく個人の活動の場は大きく世界へと広がっている。つまり、財やサービスの市場規模が世界全体 にまで拡大しているのである。一度成功すれば、短期間で世界的な大企業となることができるのである。 そのため、今や多くの企業が世界中から最もふさわしいと考えられる拠点を探索している。もちろんわが 国も例外ではなく、外資本が日本を拠点として活動すること、またその逆も加速度的に増加していくと考 えられる。

意識の上での世界化も重要である。宗教や文化などの違いはあっても、例えば地球環境問題を解 決するにあたっては世界で統一したルールづくりと意識づくりが重要となるであろうし、今後、民族 を越えた「地球上の存在」として共通の意識を持つ事の必要性は高まるであろう。

●じわじわと大きな変化を生む人口構造の変化

現在わが国の出生率は急激に低下しており、逆に高齢化率は急激に上昇していることは周知の 事実である。これはもちろん社員の家庭においても例外ではない。総務庁によれば、現在の人口 を将来も維持するのに必要な合計特殊出生率は2.08と言われているが、平成10年のわが国の合計特 殊出生率(女性が一生に産む子の数)は1.38と、この数値を大きく下回っている。これは、欧米先進諸国 と比較してもイタリア、ドイツなどに次いで低い水準であり、解決が急務となっている。

出生率低下は、経済活力の低下だけでなく社会保障負担の増大、労働供給の制約、子どもの社会性の 低下なども問題を引き起こすと考えられている。

一方で、今年の9月15日現在における65歳以上の推計人口は2,116万人と、総人口の16.7%を占め ている(総務庁)。つまり6人に1人が65歳以上の高齢者となっているのである。21世紀半ばには国民の 約3人に1人が65歳以上という超高齢社会が到来することが予測されている。

働く女性を支援する情報や介護、福祉についての情報は、個人の生活や人生設計において重要な情 報であることは想像に難くない。また、高齢者の労働力としての活用に関する情報もニーズは高まっ ていくであろう。 

●労働系、消費者保護系等の法規関連

先に述べたようにインターネットショッピングなどの電子商取引は増えているものの、規制する 法律は今のところ確立されていない。現状としては訪問販売法上の「通信販売」の適用や、 民間の自主ルールなどに基づいている。そのため「操作を間違って申し込んでしまった」、 「入金したのに商品が届かない」といった電子商取引上の消費者トラブルが急増している。今年やっと、 通産省で電子商取引の消費者保護を検討する研究会を設置し、消費者保護の観点から訪問販売法の 見直しなどの検討を行なったという段階にある。読者である社員にも、当然インターネットショッピン グの経験がある者や興味を持っている者も多いことが考えられる。さて、社内報にできることは何であろうか?
また、今年4月の「改正男女雇用機会均等法」により、セクハラが犯罪と位置付けられるようになった。 セクハラの境界線は微妙で、男性・女性間におけるセクハラの意識のギャップも大きい。しかし、 犯罪である以上、本人にはもちろん、所属する企業にも賠償金などが生じることになる。 この微妙な境界線を、きちんと把握している社員はどれくらいだろうか。

法規については難解な言葉が使用されている文言が多く、そのためか生活に密着した法律であっても、 その内容を明確に知らない場合が多いと思われる。企業や個人生活に影響の大きい法律については、 社内報で記憶に残るよう分かりやすく解説することも有益であろう。例えば、訪問販売法の消費者保護 や相続、労働基準法などをケーススタディで説明するような企画はいかがであろうか。

●万人の願いの"健康"に関する情報

「健康」は、おそらくほとんどの人間にとって多かれ少なかれ関心のある分野であろう。 企業にとっても、社員の良好な健康状態は最大の願いのうちの一つと言えよう。生活が便利になるに つれ、糖尿病や心臓病、高コレステロール、脳卒中など、いわゆる「成人病」と言われる疾病が増加してい る 。

また、パソコンを使用する人が増加したため、目の疲れや肩こりを訴える人も多く、 マッサージをはじ めリラクゼーションスポットは花盛りである。テレビの健康に関する情報番組が高視聴率をマークし、 長寿番組となるものもあれば、健康情報書籍でベストセラーになるものもある。 日常手軽に行なうことができる運動や、食事に関する留意点などの健康情報を提供することは 「魅力ある社内報」となるのに大変有効であると思われる。

そのため、編集者は日頃から健康情報番組や雑誌に触れていることが必要となってくる。 忙しくてテレビを観ることができないという編集者も多いと思うが、そのような番組の情報が本に なっていたりホームページを持っているケースは意外と多い。例として、フジ系の人気番組「あるある大 辞典」(http://www.ktv.co.jp/ARUARU/index.html)を挙げることができよう。 健康情報の雑誌では、中〜高年齢向けの「健康」をテーマにした生活情報誌である「ゆほびか」 (マキノ出版)や、医師・医学研究者らによる詳しい解説と科学的な裏付のある情報を提供する 「暮しと健康」(保健同人社)、週刊の「MEDIFILE」(デアゴスティーニ・ジャパン)などが挙げられる。

●情報を取捨選択する目を養うことが大事

専門誌のような詳細な情報を提供することが必要である、と言っているのではない。 社内報によって関心が生まれ、個人の世界を広げるきっかけとなれば大変光栄なことであるし、 社内報はそうあるべきだと考えるのである。つまり、すでにそこに存在する現状をただ知らせるので はなく、新しい世界を作り出すためのより積極的な情報提供を行なおう、ということである。 単なる「お知らせ社内報」は、今後経費削減の憂き目に遭うことは免れない。

そのための情報収集にあたって、インターネットが大活躍する。インターネットは、いつでも短時 間に膨大な量の必要な情報にアクセスすることができる。この点においては、おそらく右に出る情報 収集方法はないであろう。特に公共機関のホームページからは、広範な分野に関して多くのデータを入 手することができ、有用度が高い。その他にも出版社や広告代理店、金融機関などのホームページにも 興味深い話題を見つけることができよう。

ただし、注意するべきは根拠のはっきりしない情報も大量に存在するため、取捨選択する目を養う ことが肝要、ということである。 書籍の分野では、用語解説である「現代用語の基礎知識」(自由国民社)や「イミダス」(集英社)、 毎年の話題を論じた「日本の論点」(文芸春秋)、ゲームからテレビ、映画、コミックといったエンタテイメ ント産業について分かりやすくまとめた「エンタテイメント・キーワード」(日経BP)、メディアに関する トレンドを図表で見て取ることができる「情報メディア白書」(電通総研)などが挙げられる。企画提案 の切り口となるヒントが満載である。

●常にアンテナを広く張る

しかし、情報収集ツールがいかに揃っていても、どのような情報を伝えるべきかの判断は結局の ところ編集者にかかっている。現在どのような事柄に話題が集中しており、今後重要となる事柄は何で あるかを的確に判断し、企画にする必要がある。上記に挙げたテーマはもとより、日常生活の中でアン テナを大きく広げていることが大切である。

例えば、通勤電車の中吊りひとつとっても現在の大衆の関 心が高い事柄がつまっているし、喫茶店で隣に座った人の会話にもヒントは隠されているであろう。 自分の世代や性別、趣味ではないものに目を向けてみる。社員が実際に必要としている情報は何かを探る ために、自分からコミュニケーションを図ることも重要であろう。その際には、自分が作成している今 の社内報を読んでいるのは、本当のところどれくらいの割合なのか、また、どれくらいの時間をかけ て読んでくれているかを知ることになるであろう。

●編集者としての高いプライドを!

日頃からアンテナを広く張って、必要と自分が判断した情報が詰まった社内報が無事発行を迎えた とする。しかし、もちろん完璧な社内報などというものは存在しない。終わった、という安堵感に浸 るのも良いが、次回も同じ企画、同じレイアウト、焼き直しの内容では進歩しない。読者はすぐに飽きる。

そして再び「読まれる社内報」という受動的で消極的な存在に戻ってしまう。そこで、編集者としての プライドを持って毎回自分の目標を立て、モチベーションを高めることが必要である。小さくても毎回 必ず目標を立て、クリアすることを目指せば紙面の魅力は向上していく。

発行した社内報について反省 すると同時に、「次回はこうしよう」、「次回までにこの企画はこう変更する」、「次回はこのような感想を抱い てもらいたい」という具体的な目標を立てることによって、より「必要とされる」社内報と変容してい くことができるであろう。編集者は、まさに情報の発信源である。編集者による情報の取捨選択によっ て社員の知識の確かさが形成され、関心の幅が広がるのである、くらいの気概を持って臨んでいきた いものである。


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