「今の時代向け『ツールボックス』と社内誌への活かし方」

有限会社スプラム 代表取締役 竹内 幸次 NOMAプレスサービス掲載


先日、コンピュータSEをしている旧友に偶然会った。彼いわく「コンピュータ関係の仕事をしていて今ほど面白い時期はない。ちょっと前には夢でしかなかったことが、簡単に実現できる環境になった」。具体的には社内の情報伝達システムや、特定の取引先との情報の共有体制が進んでおり、SEとしては腕の振るい甲斐があるという。全社の情報システムが更新されるなかで、社内誌の編集も随分と変化してきている。


サブシステムとして社内誌に求められる新たな機能

一昔前は30センチの定規を駆使してレイアウトをし、依頼した原稿が郵便で届くと辞書や新聞協会が発行する「用語の手引き」を開いて送りがなや常用漢字を確認した。手あかが付いた昨年版の「用語の手引き」がやけに使いやすく感じたものだ。この頃、編集者には誤字がなく、レイアウトがたくみで、文章が読みやすく、興味のある企画を立てられることが求められていた。
今は時代が変わった。経営資源と聞いて「ヒト、モノ、カネ」と答えられる編集者は多いが、4つ目の経営資源として「情報」が、5つめとして「時間」があることを知っておこう。現代はスピード経営時代。同じ生産性をあげるのなら、1日でも10分でも短時間で成果をあげたほうが単位時間あたりの付加価値が高く、移ろいやすい消費者の「今のニーズ」を吸いあげることができる。
社内誌は経営全体の中で1つのサブシステムである。よって今の編集には「スピード」が求められている。スピードがものを言う時代において社内誌がその価値をアップするために、編集者は以下のことをあらためて自問してみよう。
・自分は企業にとって、社員にとって魅力的な特集を短時間で企画することができているか?
・自分は密度の高い情報を短時間に入手できているか?
・自分は入手した情報を編集意図に合った形で素早く加工できているか?
・自分は編集した情報を効率的に社内に伝達することができているか?


魅力的な特集を短時間で企画するための「ツール」

「企画が苦手」とする編集者は多い。こういう人は自分の頭で生まれる「代替案」を自分で次々と「評価」して「やはりこの企画もだめか…」と考えてしまう。思考が煮詰まり、終いには「代替案」自体が出てこなくなる。人の思考を分析すると、代替案を生み出すという脳の行為は「拡散思考」であり、そのなかから魅力的なテーマを選択して、企画案としてまとめるという脳の行為は「収束思考」である。拡散思考はインスピレーション(思いつき)の思考であり、収束思考は論理思考である。もともと左右の脳の違う働きを一度に処理しようとすると、前述のような「煮詰まる」ことになる。ここは2つの思考を分けて考えていこう。このように分けて考えること自体が結果的にはスピード編集につながる。


拡散思考でのスピードをあげるための「ツール」

ヒントを増やすことが必要である。社内誌企画のヒントになるものとしては様々なツールがあるが、具体的な例を示そう。
・「流行観測」(書籍)
パルコ出版が発行するトレンド冊子。現代を象徴する多くのキーワードが雑誌感覚で紹介されている。 刺激が多く、特集企画のヒントになることだろう。また、情報収集源としても十分に使える。
・「中吊りハンター」( http://hunter.joy.ne.jp/tokyometro/
電車の中吊広告をそのまま掲載したホームページ。内容から「今」が分かり、企画のヒントになる。また、慣れていない編集者には見出しの付け方という意味でも参考になる。
・「PHP INTERFACE〜本の流行情報・ビジネスデータ・口コミ情報〜」 (http://www.php.co.jp/
ホームページ中でもビジネス関連で、ユニークな情報が豊富である。ランキングニュース、 企業の社会貢献度ランキング、週間CD売上ランキング、週間ベストセラーランキング等々、 企画を忘れてついつい読みいってしまう。
・広告代理店のホームページ
電通(http://www.dentsu.co.jp/DHP/)、 博報堂( http://www.hakuhodo.co.jp/j/menu.html)等が有名だ。トピックスや様々なデータが掲載されており、ヒントになる。
・公的機関のホームページ
経済企画庁や通産省、環境庁等の中央省庁のホームページも様々なデータを公開するようになた。 お堅いイメージがあるが、一度覗いてみると意外と面白く、企画のヒントになる。統計的な数値は、 総務庁統計局(http://www.stat.go.jp/)が豊富である。ここには国が実施する統計調査結果の所在源情報、家計調査、世界の統計、住民基本台帳、労働力調査、消費者物価指数、小売物価統計調査、等々が載っている。
・「知恵蔵」や「イミダス」、「現代用語の基礎知識」等
お馴染みの現代を読み取るための用語事典。特定の用語を調べるのみでなく、企画発想のヒントとして乱読するのもいい。


収束思考でのスピードをあげるための「ツール」

上記のようなツールから企画を発想したら、次は論理思考で収束していく。どの案を採用するか、誰に原稿を依頼するか、取材は、レイアウトはどうするか。この段階では何らかの基準が必要になる。通常、まずは自社の経営理念に照らし合わせ、次には年度の方針、人事政策、福利政策等、具体的な方針に照らし合わせて収束していく。ここでスピードアップを図るためには、当たり前だが日ごろから経営理念等への理解を深めておくことだ。


短時間に密度の高い情報を入手するための「ツール」

社内誌の編集業務においてスピーディーに情報を収集できるツールを具体的に考えてみよう。
・インターネット
これほど人のコミュニケーションの仕方を革新したメディアはない。ラジオやテレビは 「1対多数」のメディアとして世論形成等に多いに役立ったが、電子メールによる1対1でも、 ホームページによる1対多数でもコミュニケーションが可能なメディアはインターネットが世界初である。
先日も健康食品を販売する中小企業からインターネットで外部の情報を素早く収集したい、 という経営相談があった。WWWの日経新聞や電子メール新聞、情報検索ページを目前で見せると隔世 の感を覚えたようで、すぐにパソコン環境をリニューアルしてインターネットを始めることになった。 編集者に限らず、インターネットは多くのビジネスパーソンにとって気軽な手元の百科事典である。 具体的には「Infoseek( http://www.infoseek.co.jp/)」や「goo( http://www.goo.ne.jp/)」が便利だ。経済、旅行、エンターテイメント、スポーツ、ライフスタイル等の切り口で欲しい情報にアプローチすることができる。


入手した情報を編集意図に合った形で加工するめの「ツール」

情報は収集した時点で「ほっ、一安心」と感じるものである。社内誌の編集では依頼原稿が届いた、あの安堵感だ。「この原稿を処理すれば発行に間に合う」と感じる。でも、社内誌編集部門が存在する意味は、収集した情報を会社にとって意味のある情報へ加工することにある。情報は単なる「データ」と言われる素の情報と、これに解釈を加えた「インテリジェンス」がある。編集で言うと、依頼原稿や取材で得た情報、インターネットで得た情報等は「データ」である。これに当社の、今期の、今月の、今日の解釈を加えて社内に価値のあるインテリジェンスにしていく必要がある。
この加工の段階では以下の2つの加工に大別される。
1つは、コンテンツ(内容)に関する部分的な加工である。もう1つは、表現の仕方である。


コンテンツに関する部分的な加工を進める「ツール」

コンテンツの加工とは、決して情報を作為的に変更することではない。編集意図によりかなうために元原稿の価値を高めることと考えよう。この作業は外部の市販されたツールはあまり役に立たない。重要なのは、やはり会社の年度基本方針書や中長期の事業計画書である。そして「トップの考え方」。活字には現れないトップの考えを、分かりやすく広告代理店に伝えたり、新聞記者へ伝えていくのが広報部門の役割である。社内誌編集においてもトップの考えを常に念頭におこう。


表現を加工する「ツール」

簡単に言えばレイアウトと画像処理、文章チェックをするツールだ。
・DTPソフト
レイアウトのスピードをあげるツールとしてはDTP(デスクトップパブリッシング)ソフトが一般的である。従来はマッキントッシュのパソコンでDTPを行うことが多かったが、最近ではウインドウズのパソコンでも編集しやすく、出力センターとの連携もとりやすいDTPソフトが発売されている。今年4月にはマイクロソフトから「Publisher98」が発売された。「プロフェッショナルな印刷物を簡単&スピーディーに!」をうたい文句に、案内状やチラシやパンフレット、名刺などの印刷物をパソコンですばやく簡単に作成できる。多くの選択肢のなかから「会報・ニュースレター」を選択して、ウィザードの質問に答えて行くだけでレイアウトや基本デザインと色づけが完成する。色彩はいくつものパターンが用意されていて、ちぐはぐなカラーバランスになることを防ぐことができる。文章校正機能や修飾機能も充実しており、編集者は内容に集中することができる。また、制作した印刷物をそのままのイメージで、html形式のホームページとしてイントラネットへ出力することもできるからいい。10,000点以上のクリップアート、1,500点以上の素材写真をはじめとする豊富な素材が利用可能で、 社内誌に限らず、広報部門が作成するパンフレットや、営業部門が使う商品説明書やチラシ等も簡単に制作できる。
・画像加工ソフト
イントラネットのみならず、紙の社内誌においても写真がJPG等のデジタル画像であることが増えてきた。こうなると、デジタル画像を加工するツールが必需になる。画像処理ソフトとしてはAdobeの「Photoshop」が普及している。Photoshopは、アートワークの作成から、色補正、レタッチ、スキャンイメージの合成や本格的な品質の色分解出力まで的確に対応することができるソフトだ。バージョン5.0の構想も発表されており、機能の奥深さと使いやすさの追求がされてきている。レイヤーを使ったり、トリミング、色の変更等、よく使う機能は是非マスターしておきたい。
・常用漢字でない漢字を自動的に検索するホームページ
「電脳道具箱(http://www.kyu-teikyo.ac.jp/~ichikawa/tools/index.html)」は便利だ。社内誌を編集していると用語の使い方に注意せざるを得ない。「朝日新聞の用語の手引き」等を参考にして常用漢字であるかどうかを確認することは社内誌編集部門では日常茶飯事だが、ホームページ上には、この常用漢字ではない用語を一瞬で見つけ出してくれる便利なホームページがあるので、一度試してみるといい。とくに電子メールで受けた依頼原稿の全文をコピー&ペーストして、このホームページでチェックすると大きな時間短縮になる。また、常用漢字のチェックのみでなく、音訓表示、漢字画数表示等もあり、「教えたくない」ほどに知っておきたいホームページだ。
・電子辞書
マイクロソフトの「Bookshelf」が有名。国語、英和を始め、小学館発行の「国語大辞典」、「プログレッシブ英和中辞典」、 「プログレッシブ和英中辞典」、「故事ことわざの辞典」、「類語例解辞典」、 「データパル」と、「American Heritage英英辞典」 の、合計7種類の辞典を1枚のCD-ROMに統合している。デスクトップ上で辞典の使い分けを意識せず、高速に一括検索ができるため、大変に便利だ。


編集した情報を効率的に社内に伝達するための「ツール」

一般的には情報は伝達する情報が発生した時点で伝達されるべきである。情報をプールしない、 これが大切だ。ただし、場合によっては段階をおって情報を小出しにするほうが効果的である場 合もあるし、重要な経営情報の場合には、外部発表を優先する必要もあるので注意しよう。
情報伝達の段階で活用できるツールとしてはイントラネットが手軽で素早い。モバイルのコンピューティング環境が普及すれば、必ずしも社内誌が紙である必要はなくなる。
また、最近では、イントラネットを活用して「放送」をすることも可能になった。「ポイントキャスト (http://japan.pointcast.com/)」がそれだ。ポイントキャストのビューワーを無料でダウンロードしてプッシュ型の外部情報をゲットしている編集者も多いと思うるが、ポイントキャストの技術を活用すれば、社内誌部門がプッシュ型で情報を社内に「放送」することができる。社内で編集したニュースや情報をもとに独自チャンネルを作り、イントラネットによって社員のパソコン画面上に自動配信する、という具合だ。レイアウトや色彩等に凝ることはできないが、速報性を重視した情報の場合には大変に有効なツールである。是非、活用の研究を進めたい。


その他の便利なハード機器ツール

・パソコン
情報の収集から伝達にいたるあらゆる場面でパソコンが必需だ。機能の革新が早く、次々と新機能が登場するが、最近は音声認識ソフトも充実してきたし、スキャナーで読み込んだ文字情報を音声読み上げする機能も出ている。障害のある社員への情報提供として今後は必要性が高まると思われる。
・スキャナー
紙媒体でしか残っていない既刊号の文章を部分的に使用するときや、印刷物の一部を文章に引用したいとき等には、スキャナーの文字認識ソフトが大変に便利だ。正しく読み取るヒット率も年々向上しており、新聞の活字なら、9割ほどは正しく認識してくれる。
・デジタルカメラ
富士写真フイルムより、150万画素の「FinePix 700」が発表された。パソコンでの編集や、遠隔地からの通信にはデジタル画像が欠かせない。紙面や画面に使用しなくても、気軽な記録方法として活用すると便利だ。
・デジタルビデオ
その名の通りデジタルのビデオカメラで、mini DVカセットテープで記録する。録画時間は、通常モードで60分であり、60分テープの価格も千円程度でコンビニでも購入できる。デジタルカメラのように静止画の記録ができる機種も多く、1本のテープに約750の画像も記録できるから便利だ。もちろん、1本のテープに動画と静止画を混在させて記録することも可能だし、7秒程度の音声も同時に記録できることも記録ツールとしては合格だ。画質はS-VHSよりも解像度が高く、CCD画素数も60万画素くらいであり有効画素数も一般的なデジタルカメラと比べて大きな遜色はない。座談会の録画等に使用して、ビデオから静止画として画像を取り出せば紙の社内誌に使用できるし、イントラネットにも乗る。

以上、社内誌の編集に便利なツールを思いつくまま紹介したが、今後も様々なツールが登場することが予想できる。大切なのは過去のスタイルや考え方に固執しないこと。場合によっては自分が作り上げた社内誌編集のスタイルを自らが変革することも必要になる。変化を柔軟に受け入れ、革新的な編集者でありつづけよう。



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